総合商社を辞めてデニム屋を始めた男の話

たとえジーンズに興味がわかなくても、創業者である祇園の話は人を引き寄せる。なぜなら、私がそうだったから。これは、ただのジーンズブランドの話ではなく、挑戦し続ける者の話。


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ジーンズなんて好きではなかった。

好きになるつもりも全くなかった。

もはや服にこだわりなんてなかった。

大衆向けに売られている服で十分だった。

3,990円のジーンズでも満足できるこの時代に、どうしてこんなジーンズを買うのか。

このジーンズブランドを創業した祇園と、ブランドの動画を制作するロバートリーと私は、前職の会社の同期だ。僕たちは新卒で大手商社に入社した。学生時代にアフリカで動物保護をしていたり、DJをしていたり、祭を運営していたり、私たちの経歴はまるで違ったけれど、意気投合した。順風満帆な商社マン生活を送るはずだった。全員が行きたいと思っていた会社に、無事入ったのだから。

「会社辞めてジーンズのプロジェクト進めることにしたわ」

入社して半年後くらいに、祇園にそう言われた。

「まじか…本当にやるんだ」

と私は驚いた。

将来的には、アフリカとジーンズを絡めた事業をしたいと入社時に話していた。新卒入社1年目で話す将来やりたいことなんて、私からしたら幻想だと思っていた。就活で語る夢と、待ち受ける現実にはあまりにもギャップがある。いくら立派な志望動機を持って入社しても、そんな初心はすぐに消えてしまう。毎日の業務に忙殺されるうちに、夢は消え失せ、目の前のことに重点を置くようになる。私自身が、そんな自分の気持ちの変化を、冷ややかに見てしまっていた。だから、彼の行動力とそのスピード感に驚いた。


彼は決して勢い任せで、辞めた訳ではない。在職中からこのジーンズのアイデアを考えていた。社内外の人から精力的にアドバイスをもらい、計画を練っていた。そして、退職前には副社長に事業のアイデアをプレゼンするほど、確固たる決意を持って、このプロジェクトを進めていた。


「ええ履きジワがついてきた」

とニヤニヤしながら、ジーンズについたシワを触っていたことを覚えている。

「変態すぎる」

私はそれを見て、そう思った。


彼はジーンズブランドが集まる岡山県の出身で、ジーンズのことを愛している。その愛ゆえ、ジーンズへのこだわりが、一般人のそれとは明らかに違う。そして、一消費者としての好きだったものが、生産者としての好きに変わっても、製品にそれが反映されている。


彼が手がけた"JOURNEY ARMOUR”というジーンズは、”人を歩かせる”ジーンズというコンセプトだ。それは、硬くて仕方のない穿き物で、歩くことでしか、柔らかくならないし、馴染んでこない。そして、色落ちにこだわったジーンズは、穿けば穿くほどその色合いが変わってくる。ジーンズを育てるという感覚なのかもしれない。最初は驚くくらい硬いジーンズは、柔らかくなることに比例して、愛着も増していく。


私はこのジーパンを初めて触った時の感動を忘れない。私が知っているジーンズとは違い、ずっしりとした感触で、鮮やかな藍色をしていた。それを見て、触って、初めて「服が綺麗だ」と思った。きっと、彼から手渡されずどこかの店で触っても、高級な手触りだと感じるほど、綺麗だった。そして、彼が数ヶ月履いているものは、すでに色と感触が変化していた。それは、新品の綺麗さよりも味があり、愛でたくなるような気もした。


そして、素人目線ではなく、プロ目線でのこだわりも教えてもらった。セルヴィッチやら旧式シャットル織機やら、日常生活で出会うことのない、言葉が山のように出てきた。当時の私には何のことかよくわからなかった。でもどうやら、ジーンズファンにはたまらないこだわりをふんだんに入れていることはわかった。日本が世界に誇る職人たちをもうならせるジーンズを完成させた。


ジーンズの生地メーカーや加工工場、産地とのコネクションもなかったはずだ。24歳の若者の熱意が、数多くの世界の職人たちを動かしたのだ。「ジーンズって作れちゃうんだ」と、文化祭のTシャツしか作ったことのない私は純粋に思った。数ヶ月前まで、同じ会社で働いていた、新入社員だったのに。熱狂が世代を超えた人を巻き込み、ブランドを立ち上げるところまで来てしまった。


同年代で嫉妬すら覚えないほど、その熱意は見ていて気持ちが良い。友達だからという義理で、はじめは応援していたかもしれない。だけど、途中からその気持ちを飛び越えた。同じく1年目で退職した自分は、図々しくも彼を理想として、それを応援することで、自分を投影してしまっていたかもしれない。でも、私自身もその熱狂に巻き込まれてしまったのは事実だ。


私が前回このジーンズを買った理由。それは、ブランドを立ち上げた彼の熱意を見たからだ。今の時代、どれだけの人が生産者の想いを知って、服を買えるのだろうか。私は人生で初めてと言ってもいいくらい、晴れやかな気持ちで、ものを買った。すごく気持ちよかった。せっかくならば、こんな挑戦をしている人がいるということを知ってほしい。その熱意を伝えられるなら、伝えたい。私は心が動かされた。


私は彼の友人で、その熱意をずっと見てきたから、買ったのかもしれない。間違いなく、そうだ。この文章を読んで、このジーンズを知った人よりも思い入れはたしかに強い。


でも、たった一人の若者挑戦に前回のプロジェクトでは354万円もの支援が集まった。彼の知り合いだけが支援をしたわけではない。むしろ知らない人の方が支援をしていた。熱意がここまで人を動かすなんて、頭でしか知らなかった。

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クラウドファウンディング第2弾終了まであと1週間です(12月11日まで)

https://camp-fire.jp/projects/view/199639


Text by ジュンヤスイ(@jjyasui

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