ジーンズ屋の代表が急に穴を掘り始めて困っています

皆さんは、所属する組織の代表が、急に穴を掘り始めて困ったことはないだろうか。私はある。 *


2020年4月初旬。時刻は日付を越えたころ、体には良くないと思いつつ寝る前にベットの上で、Twitterを徘徊する。タイムラインは専ら新型コロナウイルスに関するもので埋まっている。「ソーシャル・ディスタンス」や「密です!」といったキャッチーなバズワードや、布マスクや10万円給付といった政策に関する私見、afterコロナ・withコロナといった知識人たちによる社会通念の議論が、一つの画面にもみくちゃにされていた。

これらの情報が私の中にずっしりと蓄積されることはない。昨日どんなツイートを見たかなどまるで覚えていない。そうは思いつつも、テレビも持たずインターネットに依存している身としては、スマートフォンから世界を眺めるしかなかった。20分ほどのパトロールを終え、いよいよ寝ようかと思った時に、LINE電話の通知が鳴った。

「今、大丈夫?」代表の祇園からの電話だった。正直、大丈夫ではない。食と住と労働が一体となった在宅勤務は、慣れていないと疲労とストレスがたまる。この時間に電話をかけてくることは何かがあったわけだ。眠いとはいえ、通知に気づいてしまったからには電話に出るしかない。

「全然大丈夫」と私は思ってもいないことを言う。 「ちょっと思いついたんやけど」これが来るときはたいてい突拍子もないことが続く。 「コロナの影響もあって、訪問販売も自粛してる中、やりたいことがあって…。誰にも会わずに山にこもって穴を掘ろうかなと思って」 「……山?……穴?」

いつもこうなのだ。基本的に置いていかれる。どちらかと言うと私は、逆算をして動きたいタイプなのだ。次の目標を達成するまでに、やるべきTo Doはこれだけあって、これはいつまでに完了させる必要がある、ということを把握しておきたいのだ。対して彼は、基本的に思いつきと直感で動く。これがやりたいとか、これがひらめいたとかで行動にうつしやがるタイプなのだ。

これにはいつも他メンバー3人は翻弄されている。一度腰を据えて始めようとしていたことでも、彼の直感が別のところに働けば、チームとして別の動きをせざるを得なくなる。こうなると、メンバーそれぞれの業務にしわ寄せがくる。本人の中では腑に落ちていることでも、それがメンバーには伝わっていないこともよくある。ジーンズ屋なのだから、ジーンズのことだけをやり、新製品のことだけを考え、お客様のアフターフォローなどを考えていればいいのにと思う。

(はからずもソーシャル・ディスタンスを保つRockwell Japanメンバー)

逆算発想を得意とするサラリーマンスキルだけが高い私からすると、少なくとも「山で穴を掘る」ということは、現時点でのTo Doリストにはない。しかし、私たちのような立ち上げたばかりのブランドとしては、今のこの状況下で洗い出せるほどのTo Doがないことも事実だった。

「ただ、ひたすら穴を掘ろうと思う」とアイデアを明日からでも実行しようとする祇園。 「いやいや、ちょっと待て...。なんのため?誰のために?どこの山?」などサラリーマンスキルだけが高い私は、企画の不十分さを指摘することしかできない。後日、議論をすることにした。聞いた企画にワクワクすることもなく、ベッドに入った。

新型コロナウイルスに関する情報発信は、日に日に神経が使われるようになっていた。優雅に自宅でくつろぐ動画は、生活に困窮する人の気持ちを逆なでしていると批判が集中した。旅行に行きましたなんてことをストーリーであげようものなら、思わず眉をひそめる感覚が"若者"の間でも浸透し始めた。個人が個人を監視し、批判することが正当化されつつあり、誰かが誰かを噛み付くことが日常茶飯事になっている嫌な緊迫感があった。

私たちにできることは何もない。 その無力さを個人としてもブランドとしてもますます感じていた。

数日後、「穴掘りに意義が見つかった!」と絵文字がなくても、喜々としている姿が想像つくLINEが届いた。

今度は私から電話をかけてみた。

「穴を掘るときにコロナの影響を受けた飲食店を紹介しよう。穴を掘って疲れたら、飯もうまいだろうし」と案外悪くないことを言う祇園。 「たしかに、それなら今のおれらでも、できることかもしれない。でもその掘った穴はどうなるの?」 「これは山の持ち主が貯蔵庫とか、発酵食品を作る場所として使いたいらしいんよな」

まさか、穴掘りに意義を感じてしまうのか私は。ちょっとだけ面白いと感じてきて、堅い頭から無理してアイデアを絞り出す。 「じゃあ、掘る回数はいいねの数とかにしたらどうだろう?毎日100回くらい集まったとしたら、十分しんどいんじゃない?」 「ああ〜たしかにそれなら毎日変化があっておもろいな。岡山だけじゃなく、全国からも飲食店の紹介ができるくらい広がったらええな!」

いつもこうなのだ。最初はイライラするのに最後はワクワクさせられる。突拍子もなく無鉄砲なアイデアでも、どこからか可能性を感じるようになる。サラリーマン的発想を得意とする私には、絶対に思いつかないことを彼は始めやがる。もう嫉妬すらわかない。

話は変わるが、『トム・ソーヤの冒険』の「ごきげんなペンキ塗り」という話をご存知だろうか。全く知らない人のためにざっくりとした概要を書いておく。

トムが罰として家の塀のペンキを塗ることを命じられた。トムは一人では終わらないと判断し、友人に助けを求めようとする。しかし、トムはペンキを塗ってもらうことをお願いしたわけではなかった。トム自身がとても楽しそうにペンキを塗ることで、友人たちからペンキを塗らせてくれと頼まれるようにしたのだ。トムのペンキ塗りは友人の間で大人気になり、トムは無事に塀をペンキで塗り終えたという話だ。

ゴールドラッシュの男たちが目指したように、金を目指して穴を掘っているわけでもない。『ショーシャンクの空』のように、脱獄のために穴を掘っているわけでもない。ただ、人と接することができないがゆえに、人里離れた山の中でクワを振り回し、穴を掘っているのだ。お腹を空かせて全力で飲食店の紹介をするために。


サラリーマンの企画書だとしたら、穴を掘る理由は弱いとフィードバックを受けるだろう。それでいいと思った。単純にそれが楽しそうだからだ。その姿を見るとなぜだか、一緒に穴を掘り、飯を食いたくなるからだ。

この穴掘りは、緊急事態宣言が解かれ、ブランドとして訪問販売が再開できるまで実施する予定です。完成した穴は、持ち主の方に貯蔵庫、発酵食品を作る場所として戻します。こんな男に食べてほしいと思う物好きの飲食店の方はぜひご一報ください。私たちにできる最大限の支援をいたします。

新型コロナウイルスの影響で、こんな様子を見てる場合でもない方ももちろんいると思います。それでも、こんな馬鹿なことをやっている人もいるんだと思い、クスッとなってもらえれば私たちとしても嬉しいです。Twitter(@twelveO2twelve)では毎日進捗報告をしているので、そちらもぜひフォローしてください。


Text by ジュンヤスイ(@jjyasui

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