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4年前の土砂降りの台北がとても恋しい

私が行くたびに、台北では雨が降っていた。 台北は亜熱帯地域に含まれるはずなのに、4年前に降った雨はひどく冷たく感じた。


2016年2月。私は人生で初めて一人旅をした。大学3年生の21歳の時に初めての一人旅に行くなんて、旅慣れしている人からすれば、”遅い”と思うだろう。男子大学生の一人旅の先が台北なんて、旅慣れしている人からすれば、”簡単な旅先”だと思うだろう。



当時の私は、「旅慣れしたい!」という漠然とした憧れはあったものの、それは旅に出るほどの動機にはならなかった。平凡な大学生活に非常に満足しており、日々惰性をむさぼっていた。変わらない毎日に嫌気がさし、旅でそれを変えたいという想いもなければ、自分の進むべき方向がわからず、自分を探したいという想いもなかった。旅に出なくてはいけない”まっとうな理由”がなかったのだ。


「時間がある学生のうちに旅に行きなよ〜」という社会人からアドバイスもまるで響かなかった。居酒屋のトイレで見た「ピースボートで世界一周」のポスターも、トイレから出たら話のネタにしていた。



「旅に出たら刺激的な人生になる」


本や映画を通して、旅が人生を変えてくれることを頭では理解できるのだが、「毎日楽しければそれでもいいじゃん」という思いもぶつかり、旅に出る必要性を見つけられずにいた。

だからずっと、旅に出る理由を探していた。「こういう目的を達成するためには、旅に行った方がいいね」と言われたら、私にとっては楽だった。「こうなるためには、一人旅に行かないと」ということが腹落ちしていれば、旅に出る選択を早くからしてしたはずだ。感情だけで動かされるのではなく、その裏には論理がないといけないと窮屈に思っていた。


そんな考えを頭でこねくり回しているうちに、私は一人旅に行く理由をやっと見つけた。それは、「一人旅ができれば、一年間のアメリカ留学が充実するだろうから」という実利的なものだった。


留学中は日本から行きづらいところへのアクセスが良くなるわけで、そこへ行けないのは損だ。そして、一緒に行く人がいない時に、そこへ行けなくなるのも損だ。だから、一人旅はできるようになっておかないといけない。そんな論理を自分に振りかざし、無理やり旅に出る理由を作った。


いきなりアメリカで一人旅をやることは、当時の私からしたら、練習をせずに試合に出るような無謀なことだと思えた。だから、肩慣らしとして一度は、治安の良い国で一人旅というものをやってみるかという、逆算に検算を重ねた旅先が4年前の台北だったのだ。そして、4年ぶりに再び台北に先週行ったのだ。



「4年間で台北は変わっていた。いや、それ以上に自分が変わったのかもしれない」そんな陳腐なメロドラマに流れるセリフは決して言いたくないのだが、見える景色は4年前と今ではまるで違った。そしてそれは台北の発展によるものでもなかったことはわかった。


「一人旅に慣れる!」そんなことをテーマに掲げた初めての一人旅は、頭でこねくり回した論理をぶっ飛ばすくらいに刺激的だった。


コインのような切符で乗る電車。 8人と同部屋の汗臭く寝るだけで交流のないホステル。 歩いた先にあった寧夏夜市の強烈な臭豆腐。 新北投温泉での日本兵の捕虜だった人との会話。 3泊4日降り続けた雨。


「旅に出る理由なんていらなかったんだ」 達成したい目標があるから旅に出る。そんな逆算、一番最初の旅には必要なかった。とりあえず行ってみて、出会える面白さがあることを知った。


その旅は、自分が満足していたはずの日常が、退屈であるかもしれないという気づきをもたらした。それはまるで、地元の生活に十分満足していたはずなのに、上京して感覚が変わってしまった若者のようだった。



どれも初めての経験だったからこそ、たとえ4年経っていても、体が強烈に台北を覚えていた。ただ、どう頑張っても、4年前に感じた台北をもう一度感じることは、もうできなかった。


初めて行った時に驚いたバイクの数の多さは、「ベトナムの方が数は多いし、台北の方が交通ルールはましだ」と思ってしまった。以前は感動した台北101から見た夜景でも、「エンパイアステートビルからの夜景もよかった」と知った口をききそうになった。現地の小籠包を食べても、「日本でも同じものを食べられる」と、つまらない感想を頭に思い浮かべるようになってしまった。



4年間で色々知ってしまったからこそ、最初にした旅はもうしづらくなった。


空港に降りた時の、身が引き締まる不安や緊張や興奮とともに旅をすることが難しくなってきた。空港でsimカードを買い、Google Mapで調べて、バスや電車で街に行き、慣れた手つきでホステルにチェックインして、二段ベットの下をキープし、バックパックをベットに放り投げ、街歩きに出る。そんなルーティンをどこの国でも繰り返すようになってしまった。


たった4年間で行った国の数などしれているし、知らない国の方が私には多い。しかし、4年前のまっさらな気持ちで、旅に出て、なんでも吸収してやろうという気概はなかなか取り戻せない。


だから、初めての旅に出てみてください。ここだけはそよ風のような先輩風を吹かせたい。理由なんてなくてもいいから、まっさらな気持ちがあるうちに行かないと、もうその旅はできなくなる。



4年前も先週末も台北では雨が降っていた。4年前は、靴の中に浸水するほど雨は降り、その辛さを一人旅の過酷さに結びつけるかのように感じていた。


日本での生活の延長のごとく行った先週末の台北は、防水ブーツを履き、雨対策をしっかりしていた。今回の台北で不便さや不快さを感じることはなかった。ただ、4年前の土砂降りの台北がとても恋しい。


Text by ジュンヤスイ(@jjyasui